嘉穂劇場を訪ねて 〜秋の筑豊路散策〜
 
嘉穂劇場

 昨年7月の集中豪雨から復興した福岡県飯塚市の芝居小屋「嘉穂劇場」。9月17日・18日にこけら落とし公演となる「全国座長公演」が行われました。この日を待ちわびた約1,200人のファンから大きな拍手が起こるなか、熊本市で旅一座を構える九州演劇協会の玄海竜二会長が「復活の日がこんなに早く来るとは夢にも思わなかった。嘉穂劇場は旅役者の心のふるさと。すべて皆さまののおかげです」と感謝の口上を述べ、客席からは大きな拍手がわき起こった。



 嘉穂劇場は1921年落成の「中座」が前身で1931年再建し現在の姿に。純和風の2階建て木造建築で、直径約16mの回り舞台と2本の花道を備えています。収容人数、1,200人。石炭産業が隆盛を極めた戦後復興期には大衆演劇、歌謡ショー、プロレスなど多様な舞台が繰り広げられていました。最盛期、筑豊周辺には産炭地域の娯楽として50軒近い芝居小屋がありましたが、炭坑の閉山に伴い次々と閉館。現在では嘉穂劇場が唯一残るだけとなっていました。そして昨年、嘉穂劇場を突然襲った集中豪雨…。
水害当日から完全復旧を果たすまでを嘉穂劇場の伊藤さんにお伺いしました。


水害当日について
 伊藤さん:「当日、朝5時半頃だったと思います。家内が何かえらいサイレンの音が鳴って言ったり来たりすると言うので、起こされました。ものすごい滝の中にいるような雨の音がしていましたので、自宅の2階から下へ降りていくと、土間にかなりの勢いで水が流れていたんですね。『昔、大雨が降った時、客席が少し低いので前の方の畳を舞台の上に上げて濡れないように用心したことがある』という話は聞いていたんですよ。それでちょっと劇場がどうかなと気になって見に行ったんですよ。早朝でよく見えないので懐中電灯を取りに家へ戻って、劇場を見たら花道が弓なりになっているんです。これは危ないぞ。何かおかしいぞということで、そのまま危ないから入るなということになって」


 冷静になって考えればわかるんですけど、客席の方が斜めに少し掘り込んでありますから、少し上げてる土間に水が来ている時は当然客席は水に浸かっているはずなんです。だけど全然水に浸かっている風には見えない。最初に見た時畳は既に浮き上がっていたんですね。だから全然水に濡れいないし、水もないし。次に行ったときは花道が本当に弓なりになっていましたから。それから家に引き返して、とにかく書類やパソコンなどを2階に上げるのが精一杯でしたね。その間、水が上に来たのは15分ぐらいでした。そして7時前にちょっと雨が小降りになったんですよ。それで屋根伝いに劇場の2階に入って、そしたらプールに水を張ったようになっていました。すぐ家内を呼んでその光景を見て…。これで終わりだなーと思いましたね」
※写真:平成15年7月19日午前10時。20cm下がった水位。水面下には沈んだ車が。撮影:堤冴加さん。提供:嘉穂劇場。


水害直後廃業を考える
 「水害の1年ぐらい前から昨年の9月に全国芝居小屋会議を予定していて、市と色々計画を詰めていましたので、水害後すぐ市の方が来られました。また、うちに来ているお客さんや、大衆演劇の役者もどんどん駆けつけて『ここがなくなったら俺の故郷が無くなる』って言ってくれて。一時、廃業を考えましたが、そうやってどんどん『復興する』、『いくら掛かる』っていう話になって。8月の頭には(劇場前の駐車場で)ミニコンサートをやったりと、その時はもうみんなワイワイ言っているからだんだんそっちに行っちゃって。どうするこうするも考える暇もないですよ(笑)」
※写真:平成15年7月29日。花道と上手桟敷席(舞台側より)。提供:嘉穂劇場。


昨年のチャリティイベント
  「ミニコンサートをやった頃、玄海(竜二)さんあたりが『座長大会絶対やるんだ、野っ原でもやる!』って。それから場所を探して、料金決めて、チケット発売したのがお盆前ですからね。その間に1日だけやるはずが色々な方が応援に来ると。それで2日間にしてオークションをやろうということになって。津川さんに連絡取ったら『応援に行くぞ!』って言うし、また津川さんが知り合いの芸能人に声掛けたらそれこそさんまさんみたいに何で連れてこられたか分からない(笑)というような、そういう人達も巻き込んで。ただ、嘉穂劇場は延々とやってきているので、みんな何度か舞台を踏んでいるんですよ。津川さんにしろ長門さんにしろ玉緒さんにしろ、緒形さんにしろ。ここのみなさん舞台を踏んで、どういう劇場か知っているわけですよ。それくらいみんなの思い入れが強かったんでしょうね。見る方もそうだし、演じる方もそうだし。有り難いことですね」
※平成15年9月12日、嘉穂劇場の復旧支援イベントとして飯塚市体育館でトークショーとチャリティーオークションが行われ、津川雅彦さん、長門裕之さん、中村玉緒さん、緒形拳さん、明石家さんまさんなどの芸能人が勢ぞろい。また、翌13日は同会場で全国座長大会とチャリティーオークションが行われた。


再建に向けて
  「70周年の時、イベントを何もしていなかったんですよ。記念パーティーだけは街の人達がやってくれたんですけど。『このままじゃいけない。街の人にもっと使ってもらえる事を考えていかないと』と思っていたところだったんです。それと水害で中止になった全国芝居小屋会議をうちでやってくれって言われて、それを受けようと思って一昨年から約1年間(飯塚市全体のイベントとして)動いていたのが今度の復興の基礎になったかなとは思いますね」


今後の嘉穂劇場について
  「皆さんの募金やオートレース・日本宝くじ協会の助成金を受けて復旧できたんですが、これは本当、皆さんの熱意だと思いますよ。いずれにしても街のみんなでここで楽しめるような劇場として残せていけたらと常々思っていたんですよ。NPO法人にはなりましたが民設民営で、今までと同じですので使っていただいて、興行収入がこの劇場を維持していく財源になりますが、使いたいっていう人が沢山いるっていうのがわかりましたので、なんとか良い方法をこれから考えていくのがNPOなんじゃないかと思います。特に子供達ですとか中高生とか、そういった人達に今の時代から慣れ親しんでいってもらいたいですね」

※嘉穂劇場での今後の公演予定はこちらをご覧下さい。

●お問い合わせ
嘉穂劇場
住所:福岡県飯塚市飯塚5-23
TEL:(0948)22-0266 
※公演日とその前後を除いて見学可。
見学料:300円
見学時間:9:00〜17:00
駐車場:あり
休館日:不定休


 

 
 


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