
バーベキューで満腹になった後は、すぐそばの海中公園遊覧船のりばへ。午後から海中散歩へとしゃれ込みます。
牛深の海は、漁業だけでなく、日本で最初の海中公園としても有名。この海中公園は、西海岸の天草地区から富岡地区まで続いています。(ただし、海中遊覧船が運航しているのは、現在では牛深市のみ)亜熱帯性の海域だけに、海水の温度が高く、透明度もすぐれています。赤や黄色のソフトコーラルと呼ばれる軟体サンゴや、色とりどりのテーブルサンゴ、カラフルな熱帯魚などが数多く生息しており、その美しさは「海のお花畑」と呼ばれています。茂串のあの透き通った海水を思いだし、なるほどと納得。
築の島瀬戸はトサカやイソバナ、法ガ島にはイソギンチャクやウミアザミ、鶴崎一帯には、エダサンゴ、テーブルサンゴの群生が見られます。
以前はこれらの海中の景観を拝めるのは、ダイバーに限られていました。そこで、一般の人でも海中遊覧が楽しめるようにと、船底がガラス張りの半潜水型水中展望船(グラスボート)が登場しました。船底の両側にガラス窓があり、ベンチに背中合わせで腰掛けてのんびり眺められます。毎日10便も運航しているので、待ち時間はそう気にしなくてよさそうです。
これがそのグラスボート「サブマリン号」です。ピンク色のクジラをイメージして作られています。かわいいー。船長の江上さんに挨拶をして、さっそく船底の水中展望室に下ります。船内はひんやり涼しく、ほんのりグリーンがかった青い海中がガラス越しにぼんやりと映し出され、幻想的な雰囲気です。
観客からは、ひそひそとささやくような話し声だけが聞こえます。私を含め乗客全員に、「これからどんな光景が見られるのだろうか」という未知の海中散歩への期待感と緊張感が漂います。接岸している港からは、ピンクのサンゴやフジツボが見えます。
「みなさま、船が出発します。これから約80分の海中遊覧をお楽しみください」江上船長の案内がマイクを通して聞こえてきました。皆、わずかに身を乗り出します・・・が・・・しばらくは何も見えません。ガラス窓は一面、クリーム色がかったエメラルドグリーンの水が続くだけです。あれ?何も見えないぞ。そういえば海中遊覧は、海水の透明度がかなり影響してくるって船長さんが言ってたっけ。今日はコンディションいまいちなのかな?と不安になりかけたころ。「最初の海中公園到着まで、25分ほどかかります。それまで海上の景色をお楽しみください。」
ああ、よかったあ。せっかく来たのに・・・とがっかりしていた私は、ほっと胸をなで下ろし、甲板に上がっていきます。
まず、さきほどバーベキューを食べながら見上げたハイヤ大橋の下をくぐります。いやあ、下から見ても美しい橋です。まさに芸術品ですね。
しばらく、郊外ののどかな港町の風景を通り抜けます。岸には漁船がずらりと停船し、魚や海藻などがあちこちで干され、その向こうには昔ながらの民家が軒を連ねています。土地の人たちはみなのんびりと動いています。海上では、行き交う漁船がぽんぽんとモーターの音を立てて走っています。どこか郷愁ただよう、なつかしい風景です。年間平均気温17度の温暖な気候もあってか、この町全体がのどかな雰囲気に包まれています。
船上のお客さんたちも、静かにじっとその風景を眺めています。オペラグラスで岸をのぞいている人もいます。海からはたえず潮風が吹きつけ、体中が潮でベタベタしてきます。
しだいに人家から離れ、ゴツゴツした海岸線に沿って南へと下ります。大小の島々と入り組んだ地形、そこにエメラルドグリーンの海がたたえられています。緑が生い繁る自然のままの海岸線がそこにありました。
「左に見えるのは鹿児島の島々です。近い将来、ここ牛深からあの島に夢の橋が架かる予定です。この付近では、車エビや真珠の養殖やマダイ漁がさかんです。右手の方で網を仕掛けているのは、いかだ漁です」
人気のない入り江に、江上さんの声だけが聞こえます。
「そろそろ海中公園に到着します。船の中へどうぞ」
船長さんの案内に、待ってましたと一斉に船底へ押し寄せるお客さんたち。私も急いでいい席を取り、ガラス板に顔を近づけ、じっとのぞき込んでみます。するとそこには、神秘的な光景が広がっていました。
水深4〜5mほどの海底は、さながら子供の時に読んだ「浦島太郎」の竜宮城でした。エメラルドグリーンの海に日の光が射しこみ、海底の白砂に影を落としてゆらゆらと揺れています。
海中に舞う塵も浮遊しているのが見えます。カラフルなサンゴや白糸イソギンチャクが海底を彩り、その間をぬって熱帯魚が優雅に泳いでいます。
熱帯魚は、水温10度以下では棲めません。
あたたかい海水が、やさしく海中の生物たちを育んでいるのです。熱帯魚の上を、魚の群が気まぐれに速度を変えて泳ぎ回っています。水面を見上げると、ちゃぷちゃぷと船体を洗う音がして、キラキラ光っていました。思わず息をのむ、美しい風景です。
ここには、軟体サンゴ50種類と硬いサンゴ100種類が生息しています。サンゴ虫は、水の濁る原因でもあるプランクトンをエサにしています。(このプランクトンは夏に大量に発生し、海水を濁らせる原因にもなります)目に見えるだけでも、ふにゃふにゃ揺れてる紫色のサンゴ、しわしわの大きなサンゴ、真っ赤なサンゴ、黄緑のサンゴ、岩のようにゴツゴツした白いサンゴ、赤茶けたサンゴ、何層も重なっており、表面がブツブツしたテーブルサンゴ・・・。実にさまざまな形と色のサンゴです。
「テーブルサンゴの白いふちどりは、年間5〜6mm成長している証拠です」とアナウンスの声。これくらいの大きさになるには、果たしてどれほどの年月を必要としたのでしょうか。
熱帯魚もサンゴ負けず劣らずにぎやかです。ブルーの小さな魚、黒に水色の線が入り、黄色のヒレを持つカラフルな魚、岩の色と同化した保護色の茶色の縞模様の魚、黒く細い魚、エラをバタバタさせて、サンゴに頭をつっこんでいる太った茶色の魚。あれはフグかな?他にもキビナゴ、メジナ、マダイ、アワビ、サザエ、ウニなどが見られるそうです。
「体長1mくらいのヒラメが、水面近くで泳いでるかもしれませんよ」と教えられ、水面を見上げると・・・ひええ。海水浴の天敵・クラゲを間近で見てしまった。私、あのゼリーみたいなぶよぶよした質感がだめなんです〜。
クラゲのせいで少し気が滅入ったとき、観客から「おおー」と歓声が起こりました。船長さんが甲板からエサをまき散らしたみたいで、青色のメジナたちがそのエサに一斉に群がってきました。まさに目の前で魚の群が踊っています。うろこの一枚一枚やヒレの筋まで見える距離で、今にも手が届きそう。目の前で一定のリズムで泳ぎ、その統一された動きはマスゲームのよう。さっき昼食をたらふく食べたばっかりなのに、「これまたおいしそう」との感想を抱きました。
海中散歩を満喫したら、今度は海上の絶景を愛でる番です。雲仙天草国立公園の一部に指定された海岸線は、ゴツゴツした岩礁や断崖が連なり、複雑に入り組み、大小の島々が男性的な風景美を造り上げています。周りは本当に自然だらけ、釣り人以外は誰もいないところです。岸のはるか先には、長崎県の雲仙普賢岳が見えます。いくつかの島々をくぐりぬけて、ゴツゴツした岬へと到着です。 江上さん:あれは獅子吠岬です。形がちょうどライオンの横顔に似ているでしょう。桜島を中心とする太古の大カルデラ火山の溶岩が、波の浸食によって削られてできた奇形岩です。
そのライオン岩の近くに、小さな島というか岩があり、洞窟も見えます。
江上さん:あの”宝島”にはおもしろいエピソードがあります。寛永14年、天草の乱の武将でキリシタン大名の千束善右衛門が、10万両の軍資金を埋蔵したという言い伝えが残っているのです。
なにっ、10万両!?お宝発掘マニアが喜びそうな話です。
次に船長さんが嬉しそうに、「みなさん、ラッキーですね。今ちょうど潮が引いているので、亀の岩が見られますよ」。その亀の岩の上で、磯釣りの漁師さんがせっせとアワビを採っていました。その人は漁に夢中だったのか面倒だったのか、サブマリン号がすぐ側を通っても顔を上げようとしません。
それにしても、こんなちっぽけな岩の上で、何時間も孤独に漁をするのは大変だろうなぁ。私だったらうっかり落ちてしまいそうな狭い作業場です。
帰りはまた甲板で海風を受けながら帰りました。江上さんの精通した案内アナウンスも大変すばらしかったです。80分なんてあっという間、時間が経つのも忘れて、海中と海岸の絶景に見とれていました。海上で停泊する時間が長いので、船もゆらゆら横に揺れていたので、最初のうちは船酔いが心配でしたが、うれしいことにそんな暇もありませんでした。いやー、満喫したなー。
ところでこのグラスボート、冬場のほうが透明度が高く、海水がきれいなので、冬場がオススメだそうです。船上ではカモメウオッチングも体験でき、カモメに餌付けもできます。
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