変わり種グルメの旅in熊本市 料理人たちのこだわりが生んだ品々


 熊本市内から熊本新港へ向かう途中に、日本五大稲荷神社のひとつ、高橋稲荷神社があります。2月11日の初午大祭には、商売繁盛や五穀豊穣を願う10万人以上の参拝客でにぎわうところです。豆腐田楽の専門店「田楽家」さんは、その神社の巨大な鳥居のそばにあります。創業明治10年、約120年もの歴史を持つ老舗です。日本的な店構えがさりげなく存在をアピールしています。

 「いらっしゃいませ」とはつらつとした声で出迎えてくださったのは、中山昌代さん。ショートカットの元気な方です。店内は、竹の屏風が立てられ、壁には中国風の掛け軸がかかり、静かなBGMが流れ、落ち着いた雰囲気です。
 この店は、観光客はもちろんのこと、毎年墓参りの時期には必ず立ち寄ってくれる常連さんや、珍しがって訪れる外国人、親子三代にわたって来る人たちもいるとか。歴史のある老舗って、本当に地域に根づいているんですね。

 まず田楽についての予備知識を、昌代さんに尋ねてみました。

〜田楽ってどういう料理なんですか?〜
昌代さん:「串刺しにした食材に味噌をぬって焼いた料理を言います。食材には、里芋、魚、肉、こんにゃく、野菜などいろいろありますが、もともとは豆腐田楽から始まりました」

〜どうして豆腐が田楽の元祖なんですか?〜
昌代さん:「田楽の名の由来は、田の神を祭り、農民の労をねぎらい励ました”田楽舞”から来ています。この舞の”下に白袴をはき、その上に色あるものをうちかけ、鷺足(長い棒に横木をつけたもの)にのり踊る姿”という様子から、”豆腐の白に味噌を塗りたてたるは、もの舞うていに似たるゆえ田楽というにや”というように、豆腐=白袴を着た人間、色つきの上着=味噌、鷺足=串、に見立てて、豆腐を刺して味噌を塗って焼いたんです」

 ここ田楽家は、その元祖の豆腐田楽だけにこだわっているそうです。

〜この店でこだわっている食材は?〜
昌代さん:「肥後みそと呼ばれる麦味噌に、肥後の赤酒と砂糖をミックスさせて作った特製みそです。赤酒を混ぜることによって、味にコクが出るんですよ」

 おお、なるほど。熊本オリジナルですね。
 赤酒は熊本の名産。超甘口で濃醇な味が特徴で、県内ではお屠蘇酒として、また全国的にはみりんに代わる料理酒として使われています。しつこくないまろやかな甘さの味噌は、女性ファンが多いそうです。

〜田楽って、特別なお祭りの時にしか食べられなかったんですか?〜
昌代さん:「いいえ、大衆料理として日常から食されていましたよ」

 農民も庄屋どんもお殿様も、囲炉裏でパチパチ焼いた田楽を食べている様子を思い浮かべて、なんだか田楽が親しみ深く感じてきました。

 今回は、肥後六花の名をつけた田楽定食のコースの中の「きく」コース(1,100円)をいただいてみます。田楽7本に、おひら(吸い物)、鉢、煮物、酢の物、ごはん、デザートが付いていて、ボリュームもたっぷりです。

 これは青のりがかかった二口大の田楽です。見てください、この上品な姿。とろりとした味噌がまたおいしそう。

昌代さん:「木綿豆腐をうまく竹串に刺して、両面を焼いた後に、甘辛いみそを表面にぬって、また十分に焼きます。裏がうまく焼けて、熱が下から豆腐を伝って上面まで達したら、今度はひっくり返して裏です。味噌を上手にぬらないと、裏返して火で焼くときにぽたぽた落ちてしまうので、これがまた難しいんですよ」

 家庭で作ろうとしてもなかなか難しい、これぞ職人技ですね。

 さぁ、なにはともあれ、試食タイムです。とろりと味噌が落ちてしまわないうちに、口に運びます。まず、ほんのり甘い味噌の味が舌に伝わり、次に味噌に含まれる砂糖のざらざらした感触が訪れます。このざらざら感が素朴でいいんですよ。しつこく喉にからまる甘さでなく、さらっとしていてどこか懐かしい甘さです。焼き豆腐もやわらかく、豆腐マニアの私も大満足。木綿豆腐でも硬くなく、ちょうど良い歯ごたえです。食べているうちに、体がぽかぽかあたたまってきます。
 春には、木の実の新芽をすりつぶして味噌に入れることもあるとか。うーん、趣がありますね。
 インタビューしている間も、いろんなお客さんに笑顔で応対されていた昌代さん。とてもアットホームな雰囲気で、つられて私も顔が和んできます。

和の味を極めた田楽。豆腐も味噌も日常的な食材だけど、調理法ひとつでこんなにユニークな料理になるんです。「豆腐」「味噌」という日本人になじみ深い食材を使っているだけあって、忘れかけていたヤマトナデシコの心(?)を呼び戻す料理でした。

●お問い合せ
田楽家
熊本市城山大塘町461
TEL(096)329-8011
営業時間:11:30〜15:00、17:00〜21:00
定休日:火曜日(祝日の場合は翌日)。

インデックスページに戻る



 copyright since 1995 AD SCCAT SYSTEMS 白木メディア株式会社