この五家荘(ごかのしょう)の魅力は、大自然だけでなくその神秘的な歴史にもあります。「肥薩国誌」によると、平安時代に藤原氏によって太宰府に流された菅原道真の子孫・左座家が藤原の追討を避けてこの地に入り、仁田尾・樅の木に、また壇ノ浦に破れた平清経の孫3人も逃れ来て緒方姓を名乗り、それぞれ久連子・椎原・葉木に隠れ住んだと伝えており、以来この五つの集落を「五家荘」と呼んでいるそうです。
その平家の落人にまつわる伝説や当時の暮らしぶりを今に伝える資料館が、ここ「平家の里」です。小高い丘の上にあり、朱色が鮮やかな神殿造りの平家伝説館や能舞台などが目に飛び込んできます。
白壁に緑の屋根、朱塗りの能舞台が、池の水面に映っています。なんとも雅な建物です。神楽・能・平家琵琶などの芸能が披露される場でもあり、かつて平家の落人も都を偲んでここ五家荘で能や琵琶に興じていたのでしょうか。
館長の黒木さんに伝説館を案内してもらいました。平家の落人ゆかりの品々が展示され、繊細な紙人形を使って平家の物語を綴っています。ジオラマもあり、ゴツゴツした山岳地帯のあいだに小さな集落が散在している五家荘全体のようすがよくわかります。すると突然、スピーカーから鉦や太鼓の音が流れ、黒い羽根を被り着物を着た等身大の人形が動き始めました。ああびっくりした。
説明を読むと、これは平家の落人たちが都をしのんで舞ったと言い伝えられている「久連子古代踊り」の人形だそうです。冠につけた黒い羽飾りは県の天然記念物「久連子鶏」のもので、白衣、海老茶の袴、手甲、白足袋、草鞋を身にまとい、哀調を帯びる太鼓と鉦のリズムに乗せて唄い踊ります。厳しい一子相伝制をとり、長男だけに伝承されてきました。なかなかカラフルな衣装ですが、一種異様な雰囲気も感じるのは、黒い羽飾りのせいで顔が見えないからでしょうか?毎年8月15日、9月1日、そして11月3日の「紅葉まつり」に久連子神社の境内で踊りが披露されます。
久連子地区には、この古代踊りをテーマにした資料館があります。久連子の歴史や古代踊りなどを臨場感あふれる3D映像で紹介すると同時に、山の暮らしに欠かせない生活用品の展示も豊富で、劇場シアターでは久連子古代踊りの衣装を体験できるそうです。他にも、シャクナゲの育苗施設や県天然記念物指定の「久連子鶏」の飼育施設のほか、食堂ではシカ刺しやしし汁、平家大根や季節の山菜からなる「久連子御膳」(要予約)なども食べられます。
平家伝説館では、大型スクリーンによるビデオ上映が3本あり、そのうちの「秘境のロマン」という話がアニメ風で面白かったです。内容は、壇ノ浦の合戦の時に扇の的を射た那須与一の子、小太郎と扇の的を提示した女人・鬼山御前(玉虫御前)とのロマンスです。
鬼山は平家の落人として五家荘に隠れ住んでいましたが、そこに平家の落人の追跡を命じられた小太郎たちが訪れます。源氏である小太郎に仲間を探されては困ると、鬼山は必死に彼らを押しとどめます。そして後に二人は恋仲になり、結婚して鬼山は乳の神様になった伝説に基づいて構成されています。
あとの2本では、五家荘の四季のようすや泉村の暮らしぶりが紹介されており、お土産にぴったりの「鬼山御前こけし」がとても可愛らしかったです。
平家の里の敷地内には、シカ園や150年も昔の茅葺き屋根の民家を移築して作った食堂や物産館、茶屋もあります。
さて、平家落人ゆかりの文化財までちょっと足を伸ばしてみましょう。国道445号線に戻り椎原地区へと進むと、左手に緒方家が見えてきます。壇ノ浦の戦いで敗れた左中将、平清経が九州の山地に逃げのび、名を緒方と変えその子孫が923年から椎原・葉木・久連子地区に移り住んだといわれています。
この建物自体は200年の歴史を持つそうですが、庭園はよく手入れが行き届き、茅葺き屋根がまた渋い。この地区の庄屋(今で言う町長)を務めていたそうで、立派な屋敷です。
屋敷内はしんと静まり、ひんやりしていました。天井裏への吊階段が下りているのが見えます。落人で追われていた身ゆえに必要としたのでしょうか。隠れ部屋・切腹部屋などがあり、貴重な文化遺産となっています。紅葉の時期はこの屋敷でお茶会が開かれるそうです。
平家ほど有名ではないのですが、五家荘にはもう一つの落人伝説があります。平安時代、時の権力者・藤原一族によって九州に左遷された菅原道真には菅宰相、菅千代丸の二兄弟がいました。道真の没後、藤原一族がこの兄弟に追討ちをかけますが、兄はこの五家荘に逃げ、左座(ぞうざ)太郎と名乗りこの土地を治めるようになりました。
現在の左座家は約150年前に移築されたものです。 平家の落人伝説は知っていましたが、菅原家の話は初耳でした。左座家はせんだん轟の滝の近く。屋敷内には同じく二階に隠し部屋があり、刀や古文書の隠し場所と同時に、秘密の会議室でもあったそうです。10月後半の紅葉祭りや5月の深緑の季節に、バスツアーの観光客でにぎわいます。 |