春風満開!緑川流域 新緑のアウトドアと文化発見の旅

 なさん、文楽(ぶんらく)ってご存じですか?
 実をいうとこの文楽館に取材に来る前は、”人形を使ったお芝居”くらいの予備知識しかありませんでしたし、正直いってとっつきやすい存在ではありませんでした。ですが、文楽資料館で文楽のことを学び、太夫さん達にインタビューするにつれ、「本物の公演を絶対見たい!」と熱望するまでになってしまいました。そう、文楽にいろんな魅力を発見することができたのです。
 文楽とは、人形と太夫の浄瑠璃(語り)と三味線での伴奏の三つを組み合わせたお芝居です。清和村では江戸時代の末、村の農家の人たちが農業の合間に習い覚えて、農村舞台で春・秋の奉納芝居として上演していたのが始まりです。その後、村人の間で親から子へと受け継がれてきました。明治の終わりには一時衰退しましたが、昭和に入り再び盛んになります。現在では保存会を結成し、やはり地元の方たちが農作業の合間に練習されています。清和村では、文楽は生きた芸能なのです。
 全国には文楽館が100ヶ所も残っていますが、展示されているだけのところがほとんど。実際にその人形を動かして上演している所は少ないのです。その上、ここ清和文楽館は、九州で唯一の文楽専用劇場です。清和の人々の文楽にたいする熱意をひしひしと感じます。

 ずは文楽に関する予備知識を付けようと、資料館に足を運びます。ガラス張りで明るい館内には、精巧な造りの人形、西陣織の美しい衣装、説明のビデオなどがぐるりと並んでいます。文楽人形の第一印象は・・・とにかく、大きい!写真やパンフレットで見たイメージより断然大きく、最大のもので150cmはあるそうです。

背丈が自分とあまり変わりません。人形は、頭と右手担当の主遣い、左手担当の左遣い、両足担当の足遣いの3人で動かします。3人の息がぴったり合って、人形の繊細な動きが表現できるそうです。こんな大きい人形を生きてるように動かすのって、すごく難しそう。って当たり前か。でもちょっと体験してみたいような気が・・・。

 というわけで、操作体験コーナーで人形の頭を実際に操作してみます。頭だけなら何とかなるでしょ。指導してくれるのは資料館の渡辺さん。頭を支える棒から糸が通してあって、その糸を引っ張ると眉や眼球が動き、人形が生き生きした表情を作ります。「おおっ、おもしろい」と渡辺さんから頭を奪い取り、ぎこちないながら表情を動かします。「うう、やっぱり難しい。」
 人形の頭は、手直ししつつ100年以上も使い続けてきたそうです。値段は、高いものになると200万円もするとか!日本にわずか数人だけの熟練した職人さんの手による、魂のこもった作品です。

 もともと文楽には数多くの外題(上演作品)がありましたが、その中で厳選された6作品を現在上演しています。2ヶ月ごとに新しい作品が見ることができます。年間250回公演、3万人のお客さんが全国から来るそうです。年齢層は幅広く、専門的な方もいれば、初心者で芝居の雰囲気を楽しむ方、さまざまです。劇場の舞台では、大型スクリーンで清和文楽を紹介した映画を上映するそうです。上演のない日でも、大いに楽しめますね。

 この人形は、日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)の渡し場の段に登場します。この話は、「皇位継承争いに敗れた安珍は、宿先の娘・清姫から見初められたが、恋人と共に道成寺に向かう。安珍を追ってきた清姫は、日高川で足止めされ、嫉妬に狂った果てに大蛇に変身して川を渡りきる」という内容です。一瞬で姫の顔が鬼女に変身する仕掛けは見事なものです。でも、この鬼女、本当に怖いですね。

 れが舞台です。向かって右側に太夫(語り部)と、義太夫(三味線演奏者)が座を構えます。天井は高く特殊な梁組で、木を基調とした温かい建物です。

 今回舞台でお目にかかったのは、義太夫の山崎さん。三味線の師匠であるお母様の影響で、自然と日本の古典舞踊に深い造詣をもつことになったそうです。三味線の仕事を求めて、抜群の環境の整った清和文楽館に。義太夫の衣装を着て演奏される姿がとても凛々しい。気合いがひしひしと伝わってきます。三味線の生演奏を聞くのは初めてだったのですが、たった1本の楽器で、いろんな音色を巧みに操り、すごい迫力と表現力があります。
 「ちょっとお話うかがえますか?」とおそるおそるインタビューを申し込んでみると、とても気さくな方で、終始笑顔で三味線についてお話ししてくれました。

 〜三味線を弾いていて、どんなことにやりがいを感じますか?〜
 山崎さん:「三味線を通じてお客様を喜ばせるのが嬉しいです。逆に自分も、お客様から元気をもらう日もあります。そうやって日々やりがいを持って成長し続けていきたいですね。あと、どうしても陶酔してしまう時があるので、できるだけ客観的に演奏するよう心がけています」
 〜じゃあ逆に、どういう時が一番辛いですか?〜
 山崎さん:「やはり演奏する右手の痛みなど、体調面で辛いときがあります」
 〜一番好きなシーンなんてありますか?〜
 山崎さん:「傾城阿波の鳴門(巡礼歌の段)の後半、父が我が子と知れず子を殺してしまうシーンです。物語のクライマックスなので、自然と感情がたかぶってきます」
 〜文楽を観賞される方へ一言アドバイスをお願いします〜
 山崎さん:「まず、文楽に携わる地元の者たちの熱意を感じ取ってもらいたいですね。三味線に関しては、物語を作る音には三味線が最も効果的だと思うので、そういう意味でも、メリハリの利いた演奏で、シーンの状況や人形の感情をうまく表現したいです」山崎さんの第一印象はちょっと怖そうに感じたんですが、全然そんなことはなくて、物静かで穏やかな方でした。だけど、三味線について語る山崎さんの姿は、自分に厳しいプロフェッショナルな自己抑制が感じられ、きっと内面は情熱的な人なんだろうなと思いました。

 に、地元出身の太夫・倉岡さんのお話です。こちらは、語りに対する情熱を語ってくださいました。
 倉岡さんは、ちょっとした好奇心から淡路島に三味線の弾き語りの修行にいくまでは、あまり文楽に興味がなかったそうですが、習い始めると次第にその魅力にとりつかれ、一生この道を極めようと決めたとか。

 〜語りに関して、一番大変なことは?〜
 倉岡さん:「音使いと言って、全ての登場人物の声を一人で語り分けることですね。年齢、社会的地位、性別などで口調を区別しなくてはなりません。極めようと思ったら、一生じゃ足りないくらいかもしれませんね。だから慢心は敵なんです」
 そこで倉岡さんに少し実演してもらいました。うーむ、同じ台詞でも、人物によって全然違う!流石ですね。

 倉岡さん:「それに語りは、物語全ての中心で一番大切なパートですから、絶対に間違いは許されません」
 テレビの生放送みたいなものですから、編集なんてできませんよね。そっそれにしても、倉岡さん、さすがに「語り」を語らせるとあついですね。身ぶり、手ぶりを加えて熱心に説明してくれました。最後に、
 〜文楽を観賞される方へ一言アドバイスを〜
 倉岡さん:「まず公演を見る前に、だいたいのあらすじなど予備知識を知っておいてもらいたいですね。ストーリーさえ分かれば、きっと面白く観賞できます。それと、文楽というのは”時代を超えた人情物語”です。舞台は中世で、言葉は多少古いですが、伝える内容は現代にも通じる”人の感情”です。気軽に見に来てください」
 確かに文楽は、現代でいうとテレビドラマや映画みたいな大衆芸能ですから、ホントは取っつきやすいプロットが多いんですよね。

 能としては、伝統的で敷居の高いような印象をうける文楽なんですが、実際はそんなことはなくって、「人形劇」感覚で見にきてもとてもおもしろいものだと思います。インタビューに応じてくださったお二人のおかげで、文楽に対する認識が大きく変わりました。お二人の「プロのこだわり」を感じるとともに、とてもあたたかな人柄に触れることができて、文楽がとても身近に感じることができました。清和文楽館になくてはならないこのお二人の、今後にも注目していきたいです。

お問い合せ
清和文楽館(清和文楽の里協会ホームページ
上益城郡清和村大平152 TEL(0967)82-3001
開園時間:9:00〜16:30
休館日:火曜(祝祭日のときは開館)、年末年始(12/25〜1/1)
定期公演:第2・4日曜日 13:30から約60分。200席。
予約公演:20人以上の団体様のみ(2週間前に要予約)

公演鑑賞料(入館料含む):大人(高校生以上)1,260円、中学生840円、小学生630円(税込)※大人30名以上は1割の団体割引あり。
資料館(映像と資料見学):高校生以上420円、中学生210円、小学生以下無料。

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