熊本の地中海・水俣でリゾート気分 不知火海沿岸のレジャー&グルメ

 水俣川に沿って海の方へ向かい、ヘアピンカーブを越えて小高い山を登ります。
 桜の林の隙間からは、水平線がどこまでも続き、青々と繁った海岸線が入り組んでいる景色が広がります。眼下にはフィッシングパークや湯の児温泉街、湯の児島などが小さくぽつんと見えます。ずいぶん高い所まで来たなぁ、としみじみ思う頃、道脇に太陽をあしらった派手な洋風の看板が現れ、「福田農場スペイン村」の案内を発見しました。あと少しで到着です。

 高台に着くと、突然、日本とは全く違った風景が目に飛びこんできました。白い壁、オレンジ色の瓦、南欧風のとんがり屋根の建物、石畳など、異国情緒あふれる開放的な雰囲気です。太陽の光がさんさんと降りそそぎ、原色の景色がくっきりと映えます。「何だここは?」初めて来る人は驚くかもしれません。

 ここ「湯の児スペイン村福田農場」は、質・量ともに日本一の甘夏みかんの加工品を販売したり、不知火海とれたての魚介類を活かしたスペイン料理が食べられる、食のテーマパークです。家族連れ、団体ツアー、九州エリアからの客が多く、年間20万人が訪れるという超人気スポットで、水俣観光の目玉となっています。 でも、見た目は意外と素朴でこじんまりしており、手作りの観光地といったイメージです。

 車を降りると、蝉の鳴き声がうるさいくらいにぎやかです。隣のみかん畑から甘酸っぱい香りが漂ってきます。んーいい香り。スペイン村には、あちらこちらに花が咲いており、より華やかで明るいイメージを与えます。

 石畳の階段を登るとそこはレンガが敷きつめられた広場で、カラフルな噴水が水をたたえています。洋画に出てきそうなオープンカフェ風の机や椅子がまたいい感じ。本当に外国に来たみたい。夏や太陽がよく似合う場所です。このムードにつられて、お客さんの表情も明るくなります。 広場のテラスからの景色もまたきれいなんです。オレンジ色の夏みかん畑の向こうには、不知火海の大パノラマが一望でき、大規模なリアス式海岸、堂々と普賢岳がそびえる島原半島、天草下島や小さな島々などがクッキリと見えます。

もっと知りたい、スペイン村!というわけで、業務課長の溝口さんに質問攻めです。

〜福田農場のはじまりは?〜

溝口さん:「もともとはみかん狩りのできる観光農園としてスタートしたのですが、農作物だけでは収穫シーズンが限られます。そこで年間を通してお客様に来ていただくだめに、果物の加工品を作ろうということになりました。ここ芦北地方は、甘夏みかんの日本一の産地です。地域に根ざした農園を目指していたので、”ここでしかできないこと”、”水俣・芦北らしさ”にこだわり、甘夏みかんに注目しました。まず甘夏ジュースを作り、甘夏ワイン、甘夏ゼリーなど次々と加工品を作っていったのです」

〜甘夏みかんのシーズンはいつですか?〜

溝口さん:「1月から5月の間です」

〜ところで、どうしてスペイン村という名前をつけたんですか?何か由来でも?〜

溝口さん:「うーん、よく聞かれるんですよね、その質問。もともと”スペイン”を意識していたわけではなく、スペインと水俣に意外な類似点が多いことから、この名前が付いたんですよ」

〜例えば?〜

溝口さん:「福田社長自らがスペインを旅した際に、風光明媚な水俣の自然と明るい太陽のイメージがそのままスペインの雰囲気と重なったといいます。温暖な気候や美しい不知火海、ここから見えるリアス式海岸もスペインの北西海岸が元ですし、みかんの名産地という点でも共通しています。スペインの代表的な家庭料理・パエリアの材料となるタマネギやサフランも水俣の特産品です」

 私はテレビや雑誌で見聞きしたスペインのイメージを頭に浮かべてみました。開放的で情熱的、太陽と海が似合う国、スパイシーな料理に甘いワイン、カラフルな建物、激しいフラメンコダンス、食事に時間をかけ昼寝までしちゃうゆったりした時間の流れ・・・。

 うーん、たしかに水俣と重なる部分が多そうです。海と太陽が似合うところなんか特に。意外な結びつきです。

溝口さん:「ただし、スペインを完璧に模倣するのではなく、水俣の風土や気候や自然に沿って、あくまでスペイン風に”アレンジ”しているのがポイントです」

 福田農場の「水俣にしかないもの」へのこだわりはハンパじゃありません。

溝口さん:「スペインという国の精神にも影響を受けたところが大きいです。伝統や歴史を重んじ、教会を建てるのに何百年もかけるおおらかな時の捉え方、気長にコツコツとやっていく姿勢など、見習うべき点が多いのです。自然を愛し、のんびりゆったりと余暇を過ごすスペイン人のようにくつろいでほしいですね。他のテーマパークのように大がかりな遊戯施設などは設けていないので、お子さまには少々退屈かもしれませんが、その分自然の中でリラックスしてください」

 なるほど、ここは「癒し系」の観光地なんですね。ここでは時間がゆったりと流れるので、他の観光地とはひと味違った余暇が過ごせそうです。

 夏の昼下がり、洋画の中にいるような優雅な気分にひたりつつ、溝口さんにスペイン村の施設を案内してもらいます。

 入口すぐのとんがり屋根の建物は、スペインの本格的なコース料理が2,000円から食べられる「バレンシア館」。湯の児の新鮮な海の幸を活かしたスペイン料理や、自慢のバーベキューが食べられます。スペイン料理の中でも特に人気のパエリアは、2人前の大鍋で2,600円。2階の窓際の席は最も見晴らしのいいところで、イベント時には予約が殺到するほど。この贅沢な雰囲気だけでもお腹いっぱいになってしまいます。

 そして、イベントやショッピングなどの多目的スペース「パテオ」。田舎風の開放的な店では、甘夏アイスやジュースなどの軽食がつまめたり、スペイン直輸入のカラフルな陶器や人形などの民芸品、ワインなどが販売されています。

 木が敷きつめられた坂道を登ると、自家農園で収穫された甘夏やぶどうの加工品がずらりと並ぶ「スペイン館」が目の前に。ここは後にくわーしく紹介します。

 広場をはさんで噴水の向こうに見えるのが「地ビール館」です。ビールのつまみにぴったりのおいしい海鮮料理が手招きしています。あとで行ってみようっと。

 他にも、梨や巨峰やみかん狩りができる「フルーツ農園」があります。巨峰狩りは入場料無料で1kgあたり1,200円。梨とみかん狩りは入園料(大人400円、子供300円)を払えばあとは取り放題。春は桜やつつじが咲き誇り、夏は梨と巨峰狩り、秋はみかん狩りと一年中楽しめます。

 ぶらぶらと施設内をめぐり、ロマンチックな雰囲気にひたる。石畳、白壁、オレンジの瓦、噴水と、本当におしゃれですね〜。

溝口さん:「福田農場の施設は、ほとんど廃材を再利用しているんですよ。建物までメイドイン水俣です」

 ええっ、とてもそうは見えないなぁ。どれどれ、よく見てみると・・・。

溝口さん:「石畳は使用済みの耐火レンガや、地元の石と廃線になった山野線の枕木を敷きつめたもの。カラフルな柱は古電柱に割れたスペイン瓦を貼り付けたもので、噴水は古い溶鉱炉の型にはめ込みました。白壁は地元の大工さんに、わざとむらを出して塗ってもらいました。苦労しましたよ。レストランの机は、閉鎖されたボーリング場のレーンや中古のミシン机を加工したものです。壁のモザイクはワイン瓶からできていて、レジの台の下にワイン樽を置きました。

さすがにオレンジの瓦や小物はスペインから輸入しましたが・・・。廃材の再利用が福田農場のもう一つのテーマです。包装紙・封筒も再生紙を使い、地域のリサイクル活動に取り組んでいます。環境問題に取り組むクリーンな水俣にぴったりでしょう」

 廃材の使用は決して安くはないそうですが、それでもあくまで水俣にこだわる福田農場の一貫した姿勢に、ただ驚くばかりです。

さてさて、今度は料理のおいしさに驚いてみようと思います。カンカン照りの暑さに、すっかりのどが渇いたので、地ビールで潤そうかな。勇んで明るい店内へ足を踏み入れ、眺めのいい窓際に席を取ります。広い窓からは海とリアス式海岸の風景が見られます。

 おお、確かに机がミシン机だぁ。なかなかおしゃれです。アレンジの天才ですね。奥の方には地ビール工房があり、大きなビールタンクが存在をアピールしています。

 では、地ビールの紹介です。スペイン風の名前が付いており、ジョッキでそれぞれ500円です。アーバンエールタイプの「カルメン」は、焙煎麦芽を使用し、はっきりとしたホップの香りと苦みを持つ琥珀色のビール。

 ヴァイツェンタイプの「ソレイユ」は、小麦麦芽を使用し、苦みが少なく、細やかな泡が特徴の淡色系のビール。そして最後に・・・これは珍しい。甘夏のハチミツを使った喉ごしのよい、さっぱりとした発泡酒、「ケ・セラ・セラ」。(スペイン語で「どうにかなるさ」という意味)あくまで甘夏にこだわっていますね〜。やっぱ、ここで飲むなら「ケ・セラ・セラ」でしょう。しかし、残念ながらこの日は時期が悪く在庫切れとのこと。人気あるんですね。

 それでもめげずに「ハチミツ入りということは、甘いビールなんですか?」と尋ねると、「いや、甘いという”雰囲気”は味わえますけど、甘くはないです」とのお答え。うーん、甘いビールだったら前代未聞でおもしろかったのになぁ。え?それはすでにビールじゃない?

 今回はソレイユをいただきました。飲みやすくさっぱりしていておいしかったですよ。苦みに弱い私にはぴったり。

 おつまみを選ぼうとメニューを広げます。かなりの種類があります。全部食べたーい!!と欲張ってみてもよかったんですが、溝口さんにオススメの品を選んでもらいました。

 キビナゴの天ぷら(800円)、エビのオーブン焼きスペイン風(700円)、太刀魚のみりん干し(400円)、農園風パエリア(600円)が運ばれてきました。色とりどりでおいしそうですねー。他にも、水俣特産の太刀魚の刺身(800円)や香草マリネ(500円)がオススメとか。

〜ここの料理の食材は水俣で捕れたものですか?〜

溝口さん:「もちろんです。特産の太刀魚をはじめとする魚、ムール貝、イカ、サフラン、たまねぎ、米など、ほとんど地元産です。スペイン料理を醸しだしつつ、福田農場風にアレンジして調理しています」

 説明を聞いている間も、目の前に置かれた料理から美味しそうな匂いがただよってきます。もう、我慢できない!とたまらずガブリと噛みつきます。キビナゴは、歯ごたえサクサク、コショウの味つけがしっかりきいてて、ビールのおつまみに最適!!レモン汁をたっぷりかけるとグー。添えてある玉ねぎのスライスも甘くておいしいんです。エビも、中身がぎゅっと詰まってプリプリしているし、太刀魚はとにかく大きく、みりんの甘みが染みこんでて、食べ応え十分。

 そしてとうとう、スペインの代表的な家庭料理、パエリアの登場です。日常生活ではなかなか味わえないので、ここに来たらぜひ食べたいものです。パエリアはいわゆる「スペイン風炊き込みご飯」ですが、調理法はなかなかダイナミックなのです。

 平らで大きなパエリア鍋にオリーブオイルをひき、具や玉ねぎ、にんにくを炒めます。それから具を外して、煮汁に水を適量加えてだしを作り、スープを加え、サフランで風味と香りをつけ、パプリカで色づけします。その中に生米をぱらぱらと広げて炒め、米が顔を出しはじめたら、炒めた具を乗せます。強火から中火、弱火と火を弱めながら炊き、水分を飛ばしたらできあがり。米に芯が残る程度がおいしいそうです。

 しかし、生米使うんですか〜?洗わなくて大丈夫?と首を傾げたくなりますが、それは日本人の感覚で、欧米では米はあくまで副食、野菜代わりなのです。魚介類も玉ねぎもサフランも、全て水俣の特産品。水俣で生まれるべくして生まれた料理といえます。

 スプーンを握りしめ、レモン汁をたっぷりかけて、いただきまーす。米は歯ごたえ十分、私好みの濃い目の味つけで、でもしつこくなくさっぱりしています。玉ねぎの甘みと、にんにくのスパイスが絶妙にマッチし、やめられない、とまらない。やみつきになりそう。大きなパーナ貝とあさりも、しっかり味がついて、プリプリしてます。一人分はお皿に盛ってありますが、もし鍋から直接取るのなら、鍋底の焦げ目もおいしいそうですよ。

 夢中で食べて飲んで、舌でもスペインを満喫したあと、溝口さんが甘夏サングリアを勧めてくれました。サングリアとは、ワインにフルーツを浮かべて、ワインの風味を染み込ませてから食べるというスペインの習慣からできた、ワインベースのカクテルのことです。

 フルーツ入りのワイン・・・甘くてまろやかでおいしそう・・・想像しただけでも幸せです。ここでも自家農園の甘夏みかんジュースを混ぜることで、一躍福田農場の目玉商品になりました。「甘口の赤はどうですか?」と、アルコール度数7度の軽いサングリアがテーブルに運ばれます。んーこの甘酸っぱい香りがいいですね。味は、本当にジュースみたいで飲みやすく、女性向けです。口の中で柑橘の酸味がふんわりと広がり、もうたまりませんわー。毎晩、晩酌したいくらい。甘いワインで甘い気分になり、すっかりほろ酔い加減です。グラス300円、ボトル1,500円と値段もおてごろ。

 最後に、おみやげの店「スペイン館」を紹介します。甘夏を中心に、自家農園で採れたさまざまな果物の加工品が販売されています。16種類のジャム、4種類のマーマレード、フルーツ味やワイン味の一口サイズのこんにゃくゼリーや、乳酸菌飲料などさまざま。果物からこんなにたくさんの食品が作られるなんてすごい。
 中でも珍しいのが、甘夏の果皮を砂糖漬けにしたお菓子「甘夏コンフィール」。皮の酸味と程良い苦みが砂糖の甘さと溶けあって、まさに天然の健康的なお菓子です。

〜人気の商品は?〜

溝口さん:「やはりサングリアでしょうね。最近は地ビールも人気が出てきました」

 やっぱり他の観光客も、あのサングリアのとりこになってしまったのね。わかるわかる。おっと、店の奥でワインとジュースの試飲コーナーを発見してしまいました。赤、白、ピーチに加え、それぞれブランデー入りのセレクタも含めて、合計6種類のサングリアの試飲コーナーが!!もう・・・こんなにみんなを酔わせてどうする気ですか?

 飲んべえの私は、もちろん全種類飲みました。セレクタはややコクがあり、度数も12度と高め。それでも普通のワインと比べると、甘くて軽くて飲みやすいと思いますよ。それぞれ720ml入りボトルで971円です。たくさん買って帰ろうかなぁ。甘夏ジュースも、濃縮ではなく「2倍に希釈」と書いてあります。天然そのものといった感じで、まったりして濃い〜。

 店の中央にはジャムが所狭しと並べてあり、ジャムの試食コーナーも発見!!ここでももちろん、全ての種類を制覇しました。どれも濃く天然で健康によさそう。

 スペイン館には、甘夏サングリアのワイン工房とジュース工場も併設され、一日10tもジュースを絞り、一年で500tもの生産を誇ります。自家農園で生産・管理された自然の果実を、そのままフレッシュシーズンパック。福田農場の原点でもある甘夏製品だけに、ダントツの味と品質を誇っています。

 ところで、ちょうどこの日は年に一度のスペイン祭りでした。パテオのイベント会場で行われていたフラメンコショーを見ることができ、パエリア同様これまた貴重な体験でした。フラメンコは、歌(カンテ)と踊り(サパテアード)とギター(リズム)の三つが基本です。頭に真っ赤な花をつけた女性たちが、オレンジや赤、青、黒などカラフルな原色の衣装に身を包み、激しく踵を踏みならし、ひらひらとスカートを舞わせ、情熱的に踊っていました。

 ダンサーの体の動きがなまめかしく、女の私も思わず見とれてしまいました。ギターの音色とスペイン語のラテン系の響きに合わせて、椅子を叩いてリズムを加えていました。情熱的なBGMが村中に流れ、ここはますます異国情緒を帯びてきました。

溝口さん:「水俣に来た人たちはみな、水俣はこんなに美しいところだったのかと感心して帰っていきます。百聞は一見に如かず、まず水俣に来てください。一度見に来てくれれば、水俣のイメージががらりと変わること間違いありません」

 南スペインに似た湯の児台地にそびえる福田農場。太陽の光をいっぱいに浴びて美味しく育ったみかんが、あなたを待っています。

●お問い合せ
湯の児スペイン村福田農場
水俣市陣内2525
TEL(0966)63-3900
開館時間:パテオ8:00〜17:00、スペイン館8:00〜18:00、バレンシア館10:30〜20:30、地ビール館10:00〜21:00。年中無休。
JR水俣駅から車で15分。駐車場100台。
毎年8月第一週の週末に「スペインまつり」が開催される。

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